2.ラ・デファンス
パリの西、ルーブル宮殿〜テュイルリー庭園〜コンコルド広場〜シャンゼリゼ〜凱旋門〜グランド・アルメ通りを結ぶ東西軸の延長上でコンコルド広場から北西に約4kmの位置にあり、デファンス地区整備公団(E.P.A.D.)(1958年設立)によって開発された業務地区がデファンスである(図-32) 。パリの中心部からこの地区に向かって来ると、建物が旧に日本で見られるような近代的なものに変わってくる(写-137) 。
さらに、進んで、フランス革命200周年のモニュメントとして建設された新凱旋門(写-138)(図-33)まで来ると、パリ中心部とは異なる。と言うよりは、中心部の統一された建物に反発するような巨大な建物群が並ぶ。どれ一つとして同じ建物は無い。マスタープランは、当初描いていたものが変更され、建築に対する規制が緩和されている。ここのオーナーの考えは、建築する場合の条件として決して同じものを造ってはいけないということであった。必ず目につくのがフランス革命200周年を記念して建設されたグレート・アーチと呼ばれる新凱旋門である。国際コンペで無名のデンマーク人建築家のものが採用された。高さ110m幅106mある。この建物の下には高速道路と高速郊外鉄道が縦横に走っている。これに対して、この建物は6度ずれている。この傾きはルーブルの方形の中庭の軸線と一致していると言う。
地区は業務地区のA地区と住宅及び公園のB地区に大きく分かれており計画内容は次のようになっている(図-34) 。
地区面積 815ha(A地区:115ha B地区:700ha)
A地区:業務地区 B地区:住宅及び公園
(全体)
住宅用地 400 ha
公共用地 100 ha
都市公園 27 ha
その他 100 ha
ダル(人口床版) 70 ha
(歩行者専用の空間)
地下駐車場 32000 台
ショッピングセンター 30 ha
(A地区)
地区面積 115 ha
住宅戸数 6300 戸
事務所床面積 150 ha
店舗床面積 30 ha
駐車場 40000 台
オフィスビル 40階建て30棟
事務所床面積は10年以内にはこのA地区に415ha、ラデファンス地区の東側に94ha、西側に321haの増加を計画している。さらに、このラデファンス地区も10年以内には122haを拡大する計画がある。
開発は基盤整備までをEPADが行い、個々の建物は借地権を買った民間企業がマスタープランにしたがって建設する。A地区はほぼ完成している。 |
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日本で見られるような近代的な建物
パリ中心部のものとは異なる |
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写-136:ラ・デファンス |
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写-137:パリの郊外 |
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図-32:ラ・デファンス位置図 |
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図-33:グレートアーチ断面図 |
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(1)目的と経緯
現在パリ市内に散在している中枢業務施設が企業活動の発展を阻害し、パリの都市機能を混乱させているため、それらをデファンス地区に移して整備をし、同時にパリの都市機能を回復させ、首都圏機能の拡大・発展を図ることにある。
従って、パリ地域の流入人口の増加を目的としたものではなく、都市機能に秩序を与え、交通事業の改良、自然と人工の調和を目的として業務施設のみならず、文化、学術施設、行政施設をも加えた新しい活動的かつ合理的な都市の創造を目標としている。
さらに、パリ市内の業務・住宅の過密の緩和を図ると同時に、国際都市にふさわしい副都心を形成する。
戦後の人口増と自動車の急激な増加により、超過密の状態に追い込まれたため、政府は1960年のパリ首都圏計画により、郊外への人口の分散を図る一方、都心の飽和した業務施設を周辺部に移し、それらによって大幅に占領されていた建物を住宅として取り戻すことが方向づけられた。1964年のマスタープラン確定まで、パリ首都圏計画と表裏一体となって位置付けられ、シャンゼリゼを中心とするパリの中心軸の延長線上に、多層構造の交通軸、人口地盤、幾何学形態の多様な建築物の構成による新都市を創出することとなった。
A地区は62年のマスタープランでは統一的な景観(スカイライン)を形成するため、同一形態の30階建のオフィスビルを中心とした機能主義的な人工都市となる予定であったが、最初のビルが完成した時点で画一的なビル形状に対する民間企業の反発が大きく、企業の移転をスムースに行うため、72年にマスタープランが見直され、経済的効率性を重視する方向で建築物のデザイン、ボリューム等の自由化が行われ、結果的に、スカイラインおよび街並みの不統一性が問題とされるような街づくりになった(写-139) 。
(2)地区全体
全体構成は、高度に機能分化させた諸交通施設群を重複させて、パリのモニュメント軸の延長上に敷設し、これを地区の主軸としている。A地区とB地区の中間では都市公園で囲まれたヘリポートを含む交通施設が配置されている。老人層、青年層を配慮した計画を行って、既存の街により近い年齢構成を目指している。 |
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図-34:ラ・デファンス区域図 |
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図-35:ラ・デファンスA地区 |
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図-36:A地区中心軸断面図 |
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図-37:C.N.I.T.コンクリートシェル構造フレーム図 |
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図-38:C.N.I.T.部屋配置図 |
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(3)A地区
機能の多様性および人口地盤の利用による交通の立体分離を基本方針とする。地区の東西両端の標高差(22m)を利用して25haの人口地盤を建設。人口地盤上を歩行者専用空間とし、その下の各層を建物出入路、駐車場、地区出入および貫通高速自動車道路、地方高速鉄道駅に当てる(図-35,36) 。
建物形式は事務所棟高層、商業棟中層、住宅棟低層
。事務所棟は延べ床面積(60000uもしくは100000u)45層(180m)を基準とするが、超えるもの(200000u、60層)も認められている。住宅については、職住近接と都市計画の最小単位として300〜500戸を公園で囲んだ□形の住棟と高層事務所を合わせて40階建30棟を配置している。多数で多様な超高層建築物で構成された街づくりという意味でその大規模さにおいて画期的なものであり、業務ビル26棟、住宅7棟および鉄道、街路等を含む「都市軸」により構成されている。
就業人口40000人、居住人口15000人を計画しているが設計上は歩行者の安全と公共交通機関の重視、自動車道路の目的別分離と結合
・駐車場の整備を配慮している。
中心部には、C.N.I.T.(見本市会場)に連結して、国鉄・地下鉄・バスターミナルの複合駅を建設し、7500台分の駐車場が用意されている。建築は、事務所に使用される高層塔状のもの、集合住宅に使用される中庭形式のもの、保育所などの3種類によって構成されている。
オフィスビルは1棟の従業員数最大5000人、100000uであり、その場合の階高は45階である。この地域の塔状・段状建物の色彩はパリの四季の空の色を表現している。
労働者は100、000人
でこの内50%は行政関係者である。800企業が張り付いており年間収入が20億フランに達する。全世界の中で100番までの大企業の内の11企業とフランスの中で10大企業の内の8つの企業がこの地区に入っている。従って、この地区は10年後にはヨーロッパ最大の業務地区になるであろう。
このA地区は、興味深い建物が一杯存在する(写-140)。どれもこれも規模が桁外れの大きさである。新凱旋門を初め、人口床板(ダル)、C.N.T.T.(見本市会場)、ファイアット・ビル、エルフ・ビル、マンハッタン・ビル、全国保険会社ビル、ルーセル=エクセル・ビル等、高さ、色、形についてはそれぞれ自由で個性がある。しかし、その反面、パリの中心部のような統一感が無いとも言える。
人口床板については、写-140に見える上段広場の床が全て人口で造られた床板である。構造は2重になっていて、人口地盤の上にコンクリート製の床板を置き、人口地盤と床板の間に設備配管を設けたり、その空間を雨水等の排水溝に使用している。そのため、コンクリート床板は固定されておらず、床板と床板の間には隙間があり、そこから雨水が下に流れ一カ所に集められる(写-141) 。
C.N.I.T.(見本市会場)は、デファンス地区でも最も有名で、最も早く建てられました。屋内面積8万平方mという広さの点において画期的であるともに、構想の斬新さにおいても注目するのに値する(写-142,143) 。スパン(支点間距離)は220mで世界記録であるし、天井は貝殻状のコンクリートシェルが大きな三角形の頂点に打ち込まれた三つの杭によって支えられているだけである(図-37,38) 。2つの大きなホール(1200人用と700人用)と講堂と15の小会議室を持っている(写-144)。現在は情報、通信、国際交流センターとなっており40000uがその国際業務に関連する企業に割り当てられている。
・ビジネス市場
800の企業がすでにこのラデファンスに入っている。1985年のフランスの全体の年収では
石油関連企業の86%
製鉄関連企業の68%
化学関連企業の43%
保険関連企業の29%
電子関連企業の27%
がラデファンスに集中している。企業一覧表を次に示す(図-39)。
(4)B地区
緩衝空間を挟んで高層住宅群、小企業団地、地方行政庁、文化施設を設置してある。3地区に分け、建物形態規制ではなく、高、中、低の3段階の密度規制によって行っている。住宅主体の再開発が行われており、円筒型で奇抜な窓と外観デザインの高層住宅棟を中心に事業が進んでいる。 |
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図-39:企業一覧表 |
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グレートアーチと呼ばれ、フランス革命200周年の記念として建設された |
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2年のマスタープラン見直しにより規制のない自由な建物が建つようになった |
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写-138:ラ・デファンス 新凱旋門 |
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写-133:ラ・デファンスA地区の建築群の模型 |
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この広場から眺めると両脇に立ち並ぶビルの間から広大な見晴らしが開ける |
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固定されていない。雨水が隙間から下に落ちて一カ所に集められる |
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写-140:ラ・デファンス上段広場 |
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写-141:人工地盤(ダル)の上にあるコンクリート床板 |
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この地区で最も早く建てられた最も有名な建物 |
天井は貝殻状のコンクリートシェルで、大きな三角形の頂点
に打ち込まれた三つの杭によって支えられている
スパンは世界最大の220m |
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写-142:C.N.I.T.(見本市会場) |
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写-143:C.N.I.T.内部 |
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両側の壁は、あたかも自然光が入っているような
雰囲気になるように設計されている
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写-144:C.N.I.T.内にある大ホール |
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