建  物  保  存
2.建物保存

 歴史の持っていない北海道人にとっては、建物保存という意識はあまり持ちません。最近は、歴史的な街並や建物を核とした街づくりが叫ばれるようになってきて、その意識も徐々に浸透してきています。しかし、木造の住宅ではせいぜい20年持てばいいという感覚は依然としてあり、住宅や建物に対する認識は薄いと言えます。
 ヨーロッパの街並みや建物を見ると、これらに対する意識の違いに驚かないわけにはいきません。説明を聞いていてもどうしても感覚的に理解できないところが多く感じられます。アムステルダムのヨルダン地区の整備は、建物が100年、200年という年月が経っており傷みが著しい。建物本体はレンガ造であることと長屋建てになっていたため、形はまだかろうじて存在しています。しかし、北海道人の感覚では、形が残っているということしか言いようがありません。この地区は、地盤が悪く、しかも、杭が木杭であると言います。最初、説明を聞いていると、コンクリート杭であると理解していたのですが、図で説明し始めると木杭であることが分かりました。木杭は、水位の変化によって、何十年、何百年も経れば杭の機能が無くなってしまいます。そのため、建物は、床が下がり、外壁が道路側に迫り出してきています。酷いものは、ドアの開け閉めが不可能なくらいにまでなっています。北海道人から見ると、これを修復して後世に残していく価値がどこにあるのだろうかと思いながら説明を聞くしかありませんでした。
 100年以上経った建物は法律で保存しなければならないということになっています。北海道なら再開発や建替という方法で造り替えてしまうに違いありません。保存修復を前提としているため、杭及び床の修復方法にも工夫が必要であると言います。
 古い建物の杭を修復する方法は、建物の上屋をまったくいじらないことを前提に考えています。床を取り壊し、短い鋼管杭を一階部分のスペースで木けんをセットし、少しずつ打ち込んで行き、杭を全て打ち込んでから床を造り、この床荷重は新しく打ち込んだ杭のみで支えるように設計します。こうすることによって既設の木杭は当初掛かっていた床荷重が無くなり、それ以上沈下が進まなくなると言います。この説明を聞いていると、北海道では、この様な方法はおそらく採用せず、一挙に建て替えてしまうでしょう。この様な考えに立つのは、あまりにも北海道がアメリカナイズされてしまっているのであろうかとさえ思えてきます。
 ヨルダン地区全体を案内されると、この様な建物がほとんどであることが分ってきました。もし、この地区に北海道方式を採用したらどうなるのでしょうか。この地区全体の建物が無くなり、全てが新しくなってしまいます。ということは、この地区、さらにはこの街が無くなることにまでつながります。そうなると、この街に築かれた文化が全て無くなってしまうのではないかとさえ思えるようになってきました。建物は単なる空間ではありません。そこで生活し、歴史を経ることによって文化が生まれてきます。この段階になると、空間的価値は無くなっても文化はまだ存在します。この文化まで断ち切るわけにはいかないでしょう。これが、この国の人達の心の底にある考え方なのでしょうか。
 似たようなものは、ドイツのオッテンセン地区の再開発でも見られます。この地区は、アムステルダムのヨルダン地区ほど酷い状態ではありませんが、建物を壊さずに再開発しようとしているところは非常に良く似ていると言えましょう。
 スウェーデンの場合、ストックホルムのガムラスタンは、ここの地区とは内容が少し異なりますが、周りを海に囲まれた島全体を保存している地区です。ストックホルムの旧都心地区であって、王宮をはじめとして島全体に中世以来の歴史的な建物が集中して残っており、街ぐるみの保存を目的としています。
 この地区は、建物は傷んでおらず、中世そのままに保存されています。この保存そのものが観光にもなっていることから、他の国のものとは少し異なります。
 いずれにしても、北海道人の感覚では想像できないような建物に対する執着が感じられました。私たちは、建物に対する執着をあっさりと捨てて、経済性、合理性のみの観点から再開発、建て替え等を行っているような気がします。ヨーロッパにおける建物保存の背景には、歴史的な多くの要因があり、それを歴史の無い私たちが理解することは非常に困難ではありますが、実際に見て感じることにより、今後の北海道の建築や街づくりに生かせるものを何か発見するに違いありません。
 
-013:アムステルダム ヨルダン地 傾いている家の修復方法
-014:アムステルダム ヨルダン地区
    
外壁が道路側に迫り出してきている -016:アムステルダム 
-015:アムステルダム ヨルダン地区 
   
-017:ドイツ ハンブルグオッテンセン地区  最も古い集会場 周りの建物は1718世紀のもの 
-018:スウェーデン ストックホルムガムラスタン